【勘違い騎士道事件】勘違いで傷害致死罪は軽くなるのか?

【事件の内容】

1981年7月5日午後10時20分頃、イギリス人A(在日歴8年)は、夜間帰宅途中、路上で泥酔した女性Bとこれをなだめていた男性Cとがもみ合ううち、Bが倉庫の鉄製シャッターにぶつかって尻餅をついたのを目撃しました。

その際、女性Bが「ヘルプミー、ヘルプミー」などと冗談で叫んだため、AはBがCに暴行を受けているものと誤解したのです。

Aは両者の間に割って入ってBを助け起こそうとし、ついでCのほうに振り向き両手を差し出しました。

Cは、突然の出来事でAが自分に襲い掛かってくるものと思い、防御するために自分の手を握って胸の前あたりに上げたのです。

これを見たAは、Cがボクシングファイティングポーズをとり自分に襲い掛かってくるものと誤解し、自分とBを護ろうと考え、Cの顔面めがけて空手技である回し蹴りをして右顔面付近に命中させました。Aは空手3段の腕前の持ち主だったのです。

Aの回し蹴りによってCは転倒して頭蓋骨骨折などの重傷を負って、8日後にその障害に起因する脳硬膜外出血および脳挫滅によって死亡してしまいました。

 

判例最高裁昭和42年3月26日決定)】

Aは傷害致死罪で起訴されましたが、第一審(東京地裁)は無罪、第二審(東京高裁)は有罪としたものの、減刑して懲役1年6月執行猶予3年の判決を言い渡しました。

最高裁判所は、「本件回し蹴り行為は、被告人が誤信したC(男性)による急迫不正の侵害に対する防衛手段として相当性を逸脱していることが明らかである」として、傷害致死罪の成立を認めた上で刑法36条2項による減軽を認めた原審の判断を支持しました。

 

【オワ弁判例解説】

Cさんかわいそすぎるだろこれ!って事件です。

CはBを介抱していただけで何も悪くないのに、空手三段のイギリス人の回し蹴りをくらって不運にも死んでいきました。一方、加害者のAは勘違いにより減刑されて実刑にもならないという不条理ww

Aのイギリス人としての騎士道精神・・・勘違いもいいとこです。どうやら、Aは日本に8年間住んでいましたが、日本語の能力は不十分だったようです。

とはいえ、何の落ち度もないのに回し蹴りをくらって殺された方はたまったものじゃありません。

では、なぜこの事件においてAが減刑されるかというと、勘違いであっても自分とBさんを護るために回し蹴りをした以上、普通の傷害行為と比べてAを責めることはできないよね、という理屈なのです。

 

刑法学では、司法試験にも出題される『誤想過剰防衛(=勘違い+正当防衛の意思による犯罪)』と呼ばれる有名な論点の判例でした。

 

【まとめ】 

判例の重要度:★★(誤想過剰防衛の事案は実務上ほとんどない)

被害者Cに対する同情度:★★★★★